交通事故で両足を複雑骨折の結果、車椅子の状態になっている23歳の青年ですが、入院の直後は、いつも不機嫌で半泣きで、痛みを訴えてばかりで、看護師さん達も腫れ物に触るような感じで部屋を訪れていました。
付き添いのお母さんも、息子さんのそういう精神状態をどうしようも出来ないだろうし、その頃、そのお母さんが笑っているのも見たことがありませんでした。
でも、この患者さんは、リハビリに移ってからと言うもの、理学療法士(PT)と作業療法士(OP)のセラピーのおかげか、リハビリフロアの彼の部屋の窓が大きく、広くて明るいせいか、はたまた自分の状態のコントロール度が上がったせいなのか、数日で見違えるように明るい顔の人になりました。
お母さんも、常時笑顔の人になりました。
私は、この患者さんの右足膝の斜め下くらいに出来た直系3cmくらいの円柱状(クッキーカッターでくり抜いたみたいな)の創傷のケアのためにほぼ毎日部屋を訪れていました。
ちょっと深い創傷だったので、NPWT(陰圧閉鎖療法)を1週間くらいしたら2回めくらいであっという間に半分のサイズになりました。
でも、このまま、傷をどんどん安易に閉じちゃっていいのかな?という懸念もあって、NPWTをやめました。
granulation tissue の載りがいまひとつな状態のままで傷が閉じたら、傷は閉じたとしても、その部分の肌のレイヤーの強度が弱すぎるんじゃないかと思ったのです。
そして、彼は骨を固定している器具(external fixator)を外すために、他所の大きな病院に行く、ということだったので、ではそちらの外科医にその部分の創傷も同時に見てもらうだろうから、その意味も含めてNPWTはストップしました。
そして、その部分に以前書いたBiomatrixとかそういうtissueをグラフトしたらいいんじゃないのかな、と思っていたので、是非そういうのをやってくれる病院で外科医に診てもらって欲しいなあ、と思っていたのです。
それをちらっと口にしたら「うん、わかる。マトリックスとか言うんでしょ?」と彼が言うので、「え、知ってるの?」と聞いたら「うん、ちょっとね」と言います。
そういえば、病室でいつも映画みたいのを見てるけど、多分いつも見てるのは「Grey’s Anatomy」だと思います。
今まであまり、これ何の映画かな、とか、何見てるのかとかに注意を払ったことが無かったけど、「メディカルの方に進みたいの?」と聞いたら、「うん。足が不自由でも、医者になれるのかな」と言うので、もう即答で「なれる!」と言いました。
何だかもうこの瞬間、泣きたくなりました。
この間まで、お酒飲んだり、ドラッグしたり、人生をワンダーアラウンドしていた若者が交通事故によって、人生の方向性を見出す、って…。
事故に遭ってなかったら、もしかしたら彼はずっとお酒&ドラッグの生活だったかもしれないし、それは誰にもわかりませんが、大事なのは今で、そう思うと、その事故にも意味があって、本当に全てに意味がある、と思えます。
前置きが長くなりましたが、今日はそういうわけで、私のちょっと嬉しい日となりました。